東京高等裁判所 昭和47年(ラ)505号 決定 1974年4月10日
抗告人 洲巻正治
主文
本件抗告を棄却する
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というにあり、その理由として、末尾添附別紙記載のとおり主張した。
当裁判所の判断はつぎのとおりである。
一 抗告人が本件競落許可決定の物件目録記載の(一)の宅地、同(三)の共同住宅(以下本件(一)の宅地、(三)の建物と略称する)について昭和四四年九月二五日浦和地方法務局所沢出張所受付第二四九五号をもつて同年九月二四日の抵当権設定契約を原因として抵当権設定登記を経由したことは、浦和地方裁判所川越支部昭和四五年(ケ)第二六号宅地建物任意競売事件(以下昭和四五年(ケ)第二六号事件又は本件と称する)記録添附の前記法務局出張所昭和四五年四月二二日付登記簿謄本の記載から認めることができる。
また、本件記録と前記裁判所支部昭和四四年(ヌ)第二四号土地建物強制執行事件(以下昭和四四年(ヌ)第二四号事件と称する)記録によると申立外横須賀信用金庫が昭和四三年七月二六日本件債務者野中ノブと締結した金銭消費貸借契約に基づく債権担保のため同日本件物件所有者山田宗次からその所有にかゝる本件(一)の宅地(三)の建物及び埼玉県所沢市大字所沢字雉子熊二八九二番二七宅地二一、八一平方米(六坪六〇)(現況私道)(以下本件(二)の宅地と略称する)に抵当権の設定をうけ、昭和四三年八月二日これら三物件を共同担保としてその抵当権設定登記を経由したが、本件競売申立人松崎泰長は昭和四四年一二月一五日前記債務者野中ノブの承諾をえて同女に代つて右債務金を支払い代位弁済により右抵当権を取得し、昭和四四年一二月二二日右抵当権移転の登記を経由し、ついで昭和四五年五月一八日本件(一)(二)の宅地と(三)の建物について本件競売申立に及んだこと、そして同日本件(二)の宅地について競売開始決定があり、同年同月一九日任意競売申立の登記がなされたが、本件(一)の宅地(三)の建物については、すでに昭和四四年(ヌ)第二四号事件(申立債権者株式会社平田製作興業)において昭和四四年七月二三日他の物件とともに競売開始決定があつたので、昭和四五年五月二一日同事件への記録添付がなされたことが認められる。
従つて、抗告人は本件(一)の宅地(三)の建物については前記記録添附に先だつて本件競売申立にかゝる抵当権に次ぐ前記抵当権の登記を経由していたから、その抵当権を本件競売申立人に対抗できるものというべく、抗告人は競売法第二七条第四項第三号にいう登記簿に登記した抵当権者として本件競売手続における利害関係人ということができるから本件抗告は適法である。
ところで、抗告人は競売手続ではその利害関係人たる抗告人に対しなされるべき通知が全然なされないまゝで本件競落許可決定がなされた違法があると主張する。
しかし、本件記録によれば、執行裁判所は昭和四五年七月二日、競売期日を昭和四五年八月二〇日午前一〇時、競落期日を同年同月二七日午前一〇時と指定し、併せて競売申立にかゝる本件(一)(二)の宅地、(三)の建物を一括競売に付することを命じ、同裁判所書記官が同日午後四時右競売期日通知書を抗告人に対し普通郵便に付して送付したこと、しかるに右物件所有者山田宗次が昭和四五年八月一八日本件競売手続を停止する旨の同年同月一七日付東京簡易裁判所昭和四五年(サ)調第二三四号不動産競売手続停止決定正本を執行裁判所へ提出したので、本件競売手続は一たん停止されたが、昭和四七年四月一七日に至つて本件競売申立人から右停止にかゝる競売手続の続行を上申し、こゝに執行裁判所は昭和四七年五月九日再び競売期日を昭和四七年六月一三日午前一〇時、競落期日を同年同月二〇日午前一〇時と指定し、裁判所書記官は同日午後四時抗告人に対し登記簿上にその佐所として記載された宛先に対し右競売期日通知書を普通郵便に付して発送したこと、しかるに右普通郵便は昭和四七年五月一五日転居先不明で配達できなかつたことを理由に執行裁判所に返戻されたこと、そのうち抗告人は昭和四七年六月一二日本件競売手続の利害関係人に対する通知を抗告人の新住所地である抗告人肩書地に宛てゝ送付願い度い旨記載した書面を執行裁判所へ提出したが、裁判所書記官は改めて前記普通郵便によつて期日通知を抗告人の右新住所に宛てゝ郵送する等のことをしなかつたこと、そして昭和四七年六月一三日午前一〇時の競売期日は開始されて申立外越川好郎において前記三物件を一括して代金七一五万五〇〇〇円で競落し、ついで同年同月二〇日の競落期日に本件競落許可決定が言渡されたことを認めることができる。
してみると執行裁判所は昭和四七年六月一三日午前一〇時の競売期日については利害関係人たる抗告人に対しその登記簿上の住所に宛てゝその通知を発したことは相違なく、たまたま抗告人において登記簿上の住所に変更のあつたことを執行裁判所に対し当時届出なかつたため右通知の普通郵便が抗告人に到達せず返戻されたわけである。
さて、競売期日はこれを利害関係人に対し通知しなければならないものでこれを怠れば競落不許の事由ともなり、その所在不明で通知不到達の場合は職権をもつて公示送達をすべきものとされていたが、競売法第二七条が昭和四六年法律第九九号により改正せられ右改正条項が昭和四七年四月一日施行せられたことによつて、同条第二項の競売期日を利害関係人に対し通知することを要する旨の規定が「競売ノ期日ハ競売手続ノ利害関係人ニ対シテ其通知ヲ発スルコトヲ要ス」と改められ、また同条第三項は右通知を受けるべき者の住所若くは居所が知れないとき又は外国に在るときは右通知を発する必要のない旨を定めた。このことは執行裁判所において競売事件記録上から認められる国内の住所若くは居所に宛てて利害関係人に対する通知を発送することをもつて利害関係人に対する競売期日の通知は足るものとし、それにより競売期日は適法に成立することを明かにしたものであつて、その通知を利害関係人に対し到達せしめることまでも必要としない趣旨と解するを相当とする。これを本件について見れば利害関係人たる抗告人に対する競売期日の通知が一度発せられた以上、それをもつて足るものか、或はその郵便が転居先不明等で返戻されるに至つた後競売期日前に抗告人がその転居先の届出をして執行裁判所にその宛先が明かになつた以上、裁判所が改めて届出にかゝる新住所若くは居所に宛てて再度右通知を発することを要するものか問題であるが、抗告人に対する前記競売期日の通知は本件記録編綴の登記簿上に抵当権者として記載された抗告人の住所に宛てゝ発せられたものであり、また、抗告人からの新住所の届出はその代理人から前記競売期日の直前である昭和四七年六月一二日同日付申請書を執行裁判所に提出することによつてなされたことに鑑みると前記普通郵便によつて競売期日の通知を発したことによつて抗告人に対する通知をなさなかつたものとすることはできず、右競売期日は適法であつたものといわねばならない。
なお、抗告人は右競売期日の通知が発せられ転居先不明でその郵便物が返戻された当時においては一応住居所不明の利害関係人といえないことはないが、すでに競売期日前にその住所を執行裁判所に届出ているので同条第三項にいうその住所若くは居所不明のために通知を発することを要しない利害関係人とすることはできない。
よつて抗告理由一の主張を採用することはできない。
二 つぎに抗告人は右競売期日における競売の実施に当つては競売申出の催告後一時間に満たない三〇分位で競売を終了した旨主張するが、かゝる事実を認めるに足りる証拠はなく、却つて前記競売期日の不動産競売調書によれば、浦和地方裁判所川越支部執行官佐藤正一が競売価額の申出を催告した日時は昭和四七年六月一三日午前一〇時であつて、ついで越川好郎遠藤新一から競売の申出をうけ、越川好郎を最高価競買人、その価額七一五万五〇〇〇円と呼上げ、同日午前一一時三〇分に競売の終局を告知したことが認められるので、競売実施についての違法はない。
よつて抗告理由二の主張も採用することができない。
三 しかしながら本件記録、昭和四四年(ヌ)第二四号事件記録及び同庁昭和四四年(ケ)第三二号建物任意競売事件記録に徴すると、本件(一)の宅地(三)の建物の両物件については、まず昭和四四年(ヌ)第二四号事件で他の物件に対するとともに強制競売の申立があり昭和四四年七月二三日競売開始決定(但し右申立にかゝる埼玉県所沢市緑町二丁目一九番五家屋番号一九番五木造鉄板葺二階建共同住宅兼店舗一棟床面積一階六六・〇八平方米二階六六・〇八平方米(以下別件(四)の建物と称する)については同庁昭和四四年(ケ)第三二号建物任意競売事件に記録添附)があつた後、本件においても前記(二)の宅地とともに任意競売の申立があり右(二)の宅地については競売開始決定があつたが、右両物件については同時に昭和四四年(ヌ)第二四号事件に記録添附になつたこと、従つて右両物件についての競売手続は昭和四四年(ヌ)第二四号事件の競売手続ですゝめられなければならなかつたこと、しかし執行裁判所は右三物件を一括競売に付することを命じたのは右(二)の宅地は本件(一)の宅地に接続し本件(三)の建物居住者に必要な私道部分に当り、本件(一)の宅地(三)の建物がその利用上、また競売手続上同一人に競落されることが望ましいとすれば必然的に右(二)の宅地もその者にともに競落されることを必要と見ることが相当であるうえ、右三物件は本件競売申立人の抵当権の共同担保物件となつている関係によるものと推認できる。しかも抗告人の有する前記次順位抵当権は右三物件中本件(一)の宅地(三)の建物のみを共同担保物件としておりこれを本件競売申立人に対し対抗できる関係にあり、本件(二)の宅地については右抵当権が設定されておらないので一括競売の売却条件は相当でないこと、さらに本件(一)の宅地(三)の建物については前記記録添附によつてその競売手続によるべきことは明かであるが、いずれにせよいわゆる抱き合せ競売によつて競売に付されることが相当であることが認められる。
因みに、昭和四四年(ヌ)第二四号事件においては申立外仲本興徳が昭和四四年一一月二五日同庁昭和四四年(モ)第二七九号事件で強制執行停止決定をえて同日その強制執行停止申請に及んだのであるが、右強制執行停止決定によると昭和四四年(ヌ)第二四号事件における申立不動産中同庁昭和四四年(ケ)第三二号建物任意競売事件に記録添附となつた前記別件(四)の建物の競売手続についてのみ右決定がなされたことが明かであるから、本件(一)の宅地(三)の建物についてまで競売手続の停止がなされるべきものではない。
してみれば右三物件が本件競売手続において一括競売に付されたことは違法の手続といわねばならないが、抗告人は、本件(一)の宅地(三)の建物について有する前記次順位抵当権によつて、本件競売手続きでは売却代金のうち右両物件の売却代金に当る金員について優先弁済を受けることができる立場にあるのにかゝわらず、今もし昭和四四年(ヌ)第二四号事件の競売手続において右両物件の競売がなされた場合には右次順位抵当権の登記が同事件の競売申立の登記に遅れるうえ、他の債権者らによる配当要求も予想されるので有利な配当を期待することは困難である。
従つて本件競落許可決定は右のごとき違法な競売手続に基くものではあるが、本件抗告手続において抗告人の不利益にこれを取消すことができないことは勿論、仮りに、右のごとき手続に基く競売はこれを許すべからず又は執行を続行すべからざる場合であるとしても本件(一)の宅地(三)の建物が譲渡することができないもの又は競売手続の停止があつた場合には該当せず、さらに前記一括競売を命じたことが法律上の売却条件に抵触して競売をなした場合であるとしても抗告人においてそのために本件競売手続の続行について承認しておらないものと認めるに足る証拠もないので、職権をもつて本件競落許可決定を取消し、本件競落を許さないものとすべき限りではない。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 西岡悌次 青山達 小谷卓男)
(別紙)抗告理由書
競売に付せられた不動産の表示
一、所沢市大字所沢字雉子熊二八九二番二二
宅地 壱七六、七二平方米
二、同 二八九二番二十七
宅地 弐壱、八壱平方米
三、同 家屋番号二八九二番二十二
共同住宅 一階 壱壱二、参八平方米
二階 壱壱四、八六平方米
四、所有者 山田宗次
理由
一、右不動産に対し抵当権を設定している抗告人は利害関係人として不動産競売手続においては当然通知を受けなければならないが何らの方法に依つても受けて居ないので、競落許可の決定をしたのは違法である。
二、右競売期日における競売実施に当つては競売申出の催告後一時間に満たない三〇分位で競売を終了した事は違法である。
よつて本件競落は許すべきではないから本抗告に及び右の理由を申立てる次第である。